社会の強靭性を巡る課題について、デジタル分野に関する政策を担当する行政機関「デジタル発展部(デジタル発展省)」の林宜敬・部長(大臣)はインタビューに対し、敵対勢力が誤った情報や偽情報を用いて、台湾が専制・独裁に対抗する決意を弱めようとする可能性があると指摘。デジタル発展部はこのことを非常に重視しており、「ブラックリスト」と「ホワイトリスト」という二つの戦略で対応していると述べました。
「ブラックリスト」と呼ばれる戦略は、言論の自由の保障とのバランスを取りつつ、フェイクニュースや偽情報を迅速に削除することを目的としています。「ホワイトリスト」戦略については、台湾国際放送の運営母体である中央放送局(Rti)などの専門的な報道機関が、真実かつ正確なニュース情報を発信することを奨励しています。
国際交流の促進と台湾に対する国際的な理解の深化を目的に、外交部(外務省)はポーランド国営放送Polskie Radio(ポルスキエ・ラジオ)と中央放送局(Rti)との協力による「ウクライナ記者支援」研修プログラムをバックアップしています。ウクライナ出身のタラス・アンドルホヴィチ(Taras Andrukhovych)氏とアンナ・リヴォヴァ(Anna Lvova )氏は、同プログラムで2か月間台湾を訪問している最初の記者で、29日にはデジタル発展部を訪れ、林・部長への単独インタビューを行いました。
林・部長はインタビューの中で、過去10年間で米中間のデカップリング(The Economic Decoupling)が進み、世界のサプライチェーン体系は中国主導の「レッドサプライチェーン」と、米国主導の「民主主義サプライチェーン」に分かれたと指摘。その中で、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は民主主義サプライチェーンの中核を担っており、先端半導体の9割以上が台湾で生産されていることから、TSMCを守ることは「私たちの責任だ」と強調。特に、世界のハッカーはTSMCの管理体制が高度で、直接侵入するのが困難であることを熟知しており、TSMCのサプライヤーを標的にして設備に「トロイの木馬(無害なプログラムを装って侵入し攻撃する、悪意のあるソフトウェア)」や「バックドア(コンピュータやシステムへ秘密裏に不正アクセスするための隠された「裏口」)」を仕込むことでTSMCを攻撃しようとすると説明。そのため、台湾の政府はTSMCと連携し、「SEMI E187(半導体製造装置のサイバーセキュリティ規格)という新たな規格を推進。TSMCのすべてのサプライヤーに順守を求めることで、サイバーセキュリティの確保を図っていくと述べました。
林・部長はまた、台湾は民主主義国家と連携し、こうした取り組みを各分野に応用することで、サイバーセキュリティ保護を強化していきたい考えを示しました。例えば、台湾は現在、ポーランドやウクライナと無人機(ドローン)の共同開発を進めており、戦場で敵に乗っ取られることを防ぐためにも、無人機のサイバーセキュリティ確保が不可欠だと指摘。また、台湾は日常的に中国、ロシア、北朝鮮から大量のサイバー攻撃を受けており、これにより膨大なデータと経験を蓄積してきたと説明。こうした攻撃の存在こそが、台湾をサイバーセキュリティ分野の専門家へと成長させた要因だと語りました。
林・部長はさらに、台湾のサイバーセキュリティ専門家は、意図的に偽サーバーや偽サイトを設置し、自由主義陣営の「ハニーポット(Honey Pot=コンピュータセキュリティにおいて、サイバー攻撃者を引き付けるために設置された “おとりシステム” )」としてハッカーの攻撃を誘引。そこからシステムの脆弱性を特定・修正し、その成果を民主主義陣営と共有していると述べました。
社会強靭性の強化に関して、林・部長は、偽情報が現在の台湾で非常に注目されている課題であると強調。敵対勢力が誤った情報や偽情報を用いて、台湾の人々の専制・独裁に対抗する意思を揺るがそうとする可能性があるため、デジタル発展部は「ブラックリスト」と「ホワイトリスト」という二つの戦略で偽情報に対抗している。「ブラックリスト」戦略は、非友好的な国から発信されるフェイクニュースを迅速に削除するとともに、ソーシャルメディアにも協力を求める戦略だと指摘。しかし林・部長は、台湾は民主主義国家であり、言論の自由を保障する必要があるため、両者のバランスを取ることは非常に難しい課題であると強調しました。
一方、「ホワイトリスト」戦略は、Rtiなどの専門的なメディアを支持し、社会に正確な情報を伝えることを重視する戦略であるとし、林・部長は「これは、Rtiのような専門的な記者が所属する伝統的なメディアに、真実のニュースや正確な情報を提供してもらうよう、さらに多くのメディアを奨励していくことを意味している。皆が知っている通り、時には伝統的なメディアも誤りを犯すことがあるが、平均的に見れば、伝統メディアが伝える情報は、ソーシャルメディア上の噂よりもはるかに正確だ」と述べました。
しかし林・部長は、現在の伝統的な専門メディアはデジタル時代の課題に直面しており、多くのメディアの収益がソーシャルメディアには及ばないと率直に指摘。しかし、「自由なメディアがなければ、民主主義は成り立たない」と強調し、デジタル発展部は文化部(日本の文科省に類似)と連携して支援を提供し、この問題の解決に取り組むと説明しました。
(編集:豊田楓蓮/中野理絵/本村大資)