2026年のウクライナ最大のメディアの祭典、「リヴィウ・メディアフォーラム(Lviv Media Forum, LMF)」が14日、リヴィウ市で正式に開幕しました。台湾国際放送の運営母体である、中央放送局(Rti)は同フォーラムと初めて本格的な協力関係を構築、外交部(外務省)およびアメリカの全米民主主義基金(National Endowment for Democracy, NED)と並び、LMF 2026年次総会の戦略パートナーとなっています。また、開幕初日には「台湾セッション(Taiwan Session)」が盛大に開催され、70人以上のウクライナをはじめとした世界のメディア関係者が参加しました。同フォーラムは、権威主義の拡張や情報戦に対抗するうえで、台湾とウクライナのメディア協力が一層緊密化していることを示すものとなっています。
この台湾セッション(Taiwan Session)は、「Distant Borders, Common Threats: How Can Global Media Partnerships Disrupt Authoritarian Infowars(遠く離れた国境、共通の脅威:グローバルメディアの連携はいかに権威主義的情報戦を阻止できるか)」をテーマとして開催されました。Rtiの劉嘉偉・副総局長が司会を務め、台湾およびウクライナから、情報戦、メディア研究、オープンソース・インテリジェンスの多くの専門家が招かれました。参加者は、権威主義国家による認知戦やプラットフォーム・ガバナンス、グローバルなメディア協力のあり方などについて幅広く議論を行いました。

左はプレゼンテーターの黄柏叡氏、右は司会を務めたRtiの劉嘉偉・副局長(写真:Rti)
困難を乗り越え前線へ Rti頼秀如・董事長:世界の公共メディアと共に言論の自由を守る
Rtiの頼秀如・董事長は、開幕式の挨拶の中で、今回の訪問は困難の連続だったと明かし、ウクライナのビザ申請過程では通常とは異なる障害に直面し、出発直前の時点でビザを取得できていたのは訪問団の7人中わずか1人だったと語りました。しかし、主催側や各関係者の尽力により、開幕前夜までに全員が無事ビザを取得。その後、一行はポーランド・ワルシャワから夜通しでリヴィウへ向かったということです。
頼・董事長はまた、台湾は世界で最も深刻な偽情報や認知戦の被害を受けている国の一つだと指摘。Rtiが2024年に「Rtiアカデミー(央廣学院)」を設立したのも、国際メディアやシンクタンクとの交流を強化するためだと説明し、「私たちはウクライナに来なければならなかった。それは、権威主義に立ち向かい、報道の専門性と言論の自由を追求する世界中の仲間たちと共に立つためだ」と語りました。
頼・董事長は、「ポーランド、ウクライナ、そして多くの国際組織などの各方面から多大な支援をいただいた。特に、同フォーラム主催者による絶え間ない尽力に、私たちは心から感謝している。私たちは実際に、この美しく勇気に満ちた都市を自ら訪れることができて大変うれしく思っている。そして、偽情報対策における台湾の専門的な経験を共有し、発信できることは、私たちにとって非常に重要な意義を持つ」と述べました。

Rtiの頼秀如・董事長は、開幕式の挨拶を行った。(写真:Rti)
駐ポーランド台北代表処の劉永健・代表が基調講演、「台湾は総合外交によってウクライナを支援」
ビザの問題により現地での参加が叶わなかった、ポーランドにおける中華民国台湾の大使館に相当する「駐ポーランド台北代表処」の劉永健・代表(大使に相当)は、事前収録した映像を通じて基調講演を行い、台湾とウクライナは地理的には遠く離れているが、いずれも権威主義の拡張に立ち向かう最前線に立っていると述べました。また、アメリカのジョン F. ケネディ元大統領が1963年に当時の西ベルリンで行った演説の有名な言葉を引用し、「自由は不可分なものであり、一人でも奴隷となれば、全員が自由だとは言えない」と語りました。
劉・代表は、ロシアが2022年にウクライナへの全面侵攻を開始して以降、台湾の人々はウクライナに対して強い共感と支持を示しており、現在までに、台湾の政府によるウクライナに対する支援額は、すでに1億5,000万米ドル(約220億円)を超えていると強調。
劉・代表はさらに、台湾では現在、外交部(外務省)の林佳龍・部長(大臣)が主導する「総合外交(Integrated Diplomacy)」政策を推進しており、「価値」、「同盟」、「経済」の3つの柱を通じて、ウクライナおよび民主主義パートナーとの協力関係を深化させていると説明しました。
劉・代表は、人道支援に加えて、台湾は報道の自由やメディアの強靭性強化も支援していると述べ、2022年にはフランス・パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団(Reporters Without Borders、RSF)がリヴィウに設立した「自由報道センター(Press Freedom Centre)」に対し50万米ドル(約7000万円)を寄付し支援を行ったことを紹介しました。
劉・代表は、「台湾のテクノロジーの実力と、ウクライナの人々が持つ強靭な精神を結びつけることで、私たちはより明るく、そしてより揺るぎない未来を築いている」と語りました。

ビザの問題により現地での参加が叶わなかった、「駐ポーランド台北代表処」の劉永健・代表は、事前収録した映像を通じて基調講演を行った。(写真:Rti)
台湾・ウクライナ専門家対談:防御から「積極的な発信」へ オープンソース情報を悪用した偽情報に対抗
フォーラムのメイン講演では、まず「社団法人台湾戦略模擬学会(TASS)」の研究員である黄柏叡氏が、中国がどのようにSNS、ナラティブ操作、そしてグレーゾーン戦術を通じて、世論戦、心理戦、法律戦を展開し、台湾社会の民主主義やアイデンティティに影響を与えているかを分析。
続いて、ウクライナの元情報政策副大臣であるドミトロ・ゾロトゥヒン(Dmytro Zolotukhin)氏が、政策立案の観点から講演を行い、国際社会が「プロパガンダ(propaganda)」という概念から発展し、「ディスインフォメーション(disinformation/偽情報)」、さらには「外国による情報操作・干渉(FIMI)」といった概念をどのように形成してきたかを振り返りました。
ゾロトゥヒン氏は、各国は「偽情報への防御」から「自らのナラティブを構築する」方向へ転換し、国家としてのアイデンティティや民主主義の価値観を強化すべきだと主張しました。また、台湾が直面している課題についても言及し、TikTokや、中国版のTikTokである「抖音(ドウイン)」などのプラットフォームが、選挙期間中の情報環境に影響を及ぼす可能性があると指摘。一方で、こうしたプラットフォームのアルゴリズムや運営責任を規制するための法的枠組みが、依然として十分ではないとの認識を示しました。

ウクライナの元情報政策副大臣であるドミトロ・ゾロトゥヒン氏は、各国は「偽情報への防御」から「自らのナラティブを構築する」方向へ転換すべきだと強調した。そのうえで、国家としてのアイデンティティを強化し、民主主義の価値をより明確に打ち出す重要性を訴えた。(写真:Rti)
続いて登壇した、中国軍の公開情報を研究する団体「台湾国防研究イニシアチブ」の共同創設者・温約瑟氏は、オープンソース・インテリジェンス(OSINT)の分析事例を紹介。中国政府系メディアの公開情報、衛星画像、地理的位置情報技術などを活用し、中国軍による軍事演習の動向をリアルタイムで解析する方法を実演するとともに、中国共産党の軍事宣伝における誇張や情報操作の手法を明らかにし、会場の参加者に強い印象を与えたということです。
物資支援を超えて、台湾とウクライナは未来の課題に共に立ち向かう
本年度の「リヴィウ・メディアフォーラム」において、台湾セッションは、アジアにおける民主主義の防衛および地域横断的な情報戦協力に焦点を当てた、数少ないプログラムの一つとなりました。同セッションはまた、台湾とウクライナの関係が物資支援の枠組みを超え、メディア技術や経験を共有するより深い協力関係へと発展し、権威主義の拡張に共同で対抗する姿勢を打ち出しました。
(編集:豊田楓蓮/中野理絵/本村大資)