▽ 地政学リスクの時代 公共メディアは何を担うのか
ウクライナ最大のメディアの祭典、「2026年リヴィウ・メディア・フォーラム(Lviv Media Forum、LMF)」は15日、2日目の議題に入り、台湾、ウクライナ、ジョージアの公共メディア関係者やジャーナリストが、「信頼」、「偽情報」、「戦争への備え」、そして「民主主義のレジリエンス(強靭性)」をテーマに、活発な議論を交わしました。
注目を集めたセッションのテーマは、「情報提供から意味構築へ―公共メディアはいかに“嵐の中心”で社会を導くのか(From Informating to Sensemaking: How Public Media Guide Societies in the Eye of the Storm)」で、60人を超えるメディア関係者が参加しました。

司会を務めたのは、東欧やウクライナ情勢を長年取材しているドイツ系ハンガリー人のフリージャーナリスト、クリスティアン=ジョルト・ヴァルガ(Christian-Zsolt Varga)氏です。パネリストには、台湾国際放送の運営母体である中央放送局(Rti)の劉嘉偉(Chris Liu)・副総局長、ウクライナ公共放送「Suspilne Ukraine」の幹部、マリヤ・フレイ(Mariya Frey)氏、さらにジョージアのメディア開発財団(MDF)の共同創設者兼CEO、タマル・キンツラシュヴィリ氏(Tamar Kintsurashvili)らが登壇しました。
▽台湾:「偽情報」が日常化する中、公共メディアは最後の“信頼”

中央放送局の劉・副総局長は、台湾が直面する情報環境について、「世界で最も偽情報攻撃を受けている地域の一つが台湾だ」と指摘、こうした攻撃は中国政府だけでなく、ロシアからの偽情報も重なっていると説明しました。
また、AI時代において、すべての偽情報を検証することは事実上不可能だとして、「だからこそ公共メディアの役割がさらに重要になっている。人々は何を信じればいいかわからなくなっても、少なくとも公共メディアなら信頼できるニュースを届けてくれると考えている」と述べました。
さらに、より大きな課題としてSNSの影響力を挙げ、台湾やウクライナの若者が、中国系SNSのTikTokや小紅書(RED)に大きく依存している現状に懸念を示しました。
若者たちは美容やライフスタイルなど日常的な情報を見ているように見えるものの、その背後にあるアルゴリズムは中国政府の管理下にあるとして、「もし中国政府がアルゴリズムを通じて人々の認識を操作しようとするなら、それはメディア生態系全体にとって重大な問題だ」と警鐘を鳴らしました。
▽ 備えこそ重要 Rtiは「重要インフラ」に指定
司会のヴァルガ氏は、「戦争の脅威に直面した際、公共メディアはどう対応すべきか」と質問しました。
これに対し劉・副総局長は、中央放送局が政府から「重要インフラ」に指定されていると答え、戦時や危機発生時を想定し、停電下でも放送を継続する体制や発電機の準備、さらに職員の安全やメンタルヘルス対策など、さまざまな備えを進めている。「十分な準備をしていれば、最悪の事態は起きないと信じている」と語りました。
▽ ウクライナ:「最悪」は現実になった それでも職務を全う
一方、戦火の中にあるウクライナから参加したマリヤ・フレイ氏は、「ロシアによる全面侵攻前、私たちも十分に備えていると思っていた。しかし、最悪の事態は実際に起きた」と振り返りました。
ただ、「どのような状況でも、プロのメディア人として、自分たちの仕事を果たし、それぞれの持ち場を守るだけだ」と強調しました。
▽ ジョージア:公共メディアが国家権力にのみ込まれるとき
ジョージアのタマル・キンツラシュヴィリ氏は、別の危機について言及しました。それは外部との戦いではなく、国家の内部から進行する民主主義とメディアへの侵食です。
キンツラシュヴィリ氏は、旧ソ連圏では国営メディアに対する不信感が根強いと指摘。さらに深刻なのは、近年親ロシア勢力が司法や行政、議会を徐々に掌握し、公共メディアにも影響が及んでいると説明しました。
また、「民主主義には市民の参加が不可欠だ。しかし、多くの人々は国家的な危機が起きて初めて目を覚ます。そして、『これは私たち自身のテレビ局なのだ』と人々が意識し、変化を求めてこそ、メディアにも生き残る道が開けるのだ」と訴えました。
▽「信頼は自ら勝ち取るもの」 中央放送局がJTI認証取得
ドイツの参加者より、「ドイツ社会では公共メディアの必要性は認識されているが、信頼度は低下している。どう改善すべきか」との質問が寄せられました。
これに対し、劉・副総局長は、「信頼とは、最初から存在する資産ではなく、自ら勝ち取るものだ」と力強く応じるとともに、中央放送局が、世界で初めて「ニュース信頼イニシアチブ(JTI)」認証を取得した華語メディアであることを紹介し、「透明性と検証可能性を通じて、ニュース制作のプロセスや専門性を視聴者に示す必要がある」と強調しました。
ニュース信頼イニシアチブ(JTI:Journalism Trust Initiative)は、国際NGO「国境なき記者団(RSF)」が主導する、メディアの信頼性と透明性を評価・保証するための国際的な認証制度です。
▽ 公共メディアは国境を越えた連携を 最も重要なのは“受け手”
最後に司会のヴァルガ氏は、西側諸国の公共メディアは、安定した制度や社会的地位に依存しすぎており、台湾やウクライナからの警鐘に十分耳を傾けてこなかったと総括しました。ヴァルガ氏は、近年広がる国際的な調査報道の流れを踏まえ、公共メディアも国境を越えた新たな協力ネットワークを築くべきだと指摘しました。
これに対し、劉・副総局長は、中央放送局が50年以上にわたり築いてきた、番組パーソナリティと世界のリスナーとの信頼関係に触れ、「技術がどれほど変わっても、最も重要なのは常に受け手だ」と述べ、公共メディアは最も基本的な役割、つまり「人々とのつながり」を大切にすべきだと強調しました。
(編集:王淑卿)