台湾は日本の九州地方ほどしかない大きさながら、長い歴史的背景から今でも様々な言語が共存しています。台湾の公用語といえば、「台湾華語」と呼ばれる中国語で人口の約6割以上が日常的に使用しています。台湾華語以外では使用者の多い順に、台湾語、客家語、原住民の言語が存在します。2019年にはこれらに加えて台湾手話も「国家の言語」として政府から認定されています。
台湾語は台湾の第二の言語と言われていますが「話し言葉」として使われてきたため固有の文字はなく、ローマ字と漢字で表記する言語です。主に台湾南部や台湾の高齢層を中心に話されています。日本統治時代の影響で日本語由来の単語も存在するのが特徴です。例えば、「オートバイ」や「看板」、「弁当」という日本語の単語は、実は台湾語にも存在し、発音もほぼ同じです。ですが台湾語は元々中国の福建省で使用されていた閩南語をベースに台湾で独自に進化した言語で、1600年代に福建省南部から台湾へ移民してきた人たちが話していた言葉が台湾に広まり、独自に変化したものです。台湾華語には4つの声調、つまりイントネーションの仕方がありますが、台湾語には8つの声調が存在、台湾の公用語である台湾華語とは全く異なるものです。
台湾語の次に多くの人が話す客家語についてですが、まず「客家(ハッカ)」とは「外来者」や「移住者」を意味し、客家人が他の地域から移住してきたことに由来します。台湾の客家人は主に17世紀から18世紀ごろに中国南方、特に広東省から移住してきた人々です。
客家人が台湾に移住してきた経緯ですが、文献によれば、1624年から始まったオランダによる台湾統治時代に当たる1662年、中国福建省出身の軍人で政治家の鄭成功(てい せいこう)がオランダ勢力を討ち払い台湾を統治。彼の軍隊および随行者の中には、客家語圏とされている中国広東省などの客家地域出身者も含まれており、この時期までには客家語が台湾に存在していたと考えられています。その後、客家語圏の広東省からの台湾移住が続き、台湾各地に定住。主な定住地は北部・桃園、新竹、北西部・苗栗などであり、客家語の中でも複数の方言が形成されました。そのうち「四県方言」と呼ばれる方言が優勢となり、台湾における客家語の共通語的地位を占めるようになりました。四県方言は今でも台湾で使われている客家語の中で最も話者数の多い方言であり、鉄道の駅や列車内のアナウンスなどで用いられるなど、台湾客家語の標準的な発音となっています。
台湾における客家人は現在、台北、桃園、新竹、苗栗のほか、中部・台中、南部・高雄、屏東、東部・花蓮、南東部・台東など広範囲に分布しています。中でも人口が多いのは桃園で、次いで新竹、苗栗の順になっています。2021年に政府が実施した調査によると、台湾全土に約467万人の客家人がいるとされ、台湾の総人口の2割から3割を占めています。そのうち桃園では約90万人に達しています。そんな桃園ではかつて客家語が優勢でしたが、都市化や他の言語との接触の影響により、現在では日常的に使用されている言語が台湾語や台湾華語へと移行し、客家語は家庭内での使用に限定される傾向が強まっています。一方、苗栗県は外部からの影響が比較的少ないことから、台湾で最も客家文化がよく保存されている地域とされています。
しかし、台湾全体で見るとやはり台湾華語や台湾語の使用者が圧倒的に多いため、保護のための取り組みがなければ、客家語はあと数世代で消失する可能性も指摘されています。
そのため、2000年以降になると台湾の民主化に伴い客家人の権益が法制度化され、政府の体系に組み込まれるように。例えば2000年に成立した「大衆運輸工具播音言語平等保障法(日本語訳:公共交通機関アナウンス言語平等保障法)」によって、公共交通機関の車内では必ず客家語と台湾語のアナウンスが流されることとなり、2001年には客家人の行政を担う専属の行政機関「行政院客家委員会」が設立。これに続き、2003年には初めての客家語ドラマがゴールデンタイムに公共テレビで放映されたり、台湾の音楽賞「ゴールデン・メロディー・アワード(金曲奨)」に最優秀客家語歌唱賞が設けられたり、また客家語放送のテレビ局まで開設されました。2017年には政府により全国で同じ周波数で聴ける客家語ラジオの放送が始まりました。さらに2010年1月27日には「客家基本法」が公布され、客家文化の重点発展区の設置や、客家語能力検定の実施、国民基本教育における客家語教育の実施などが実現したのです。
最近では、海外への継承と発展を推進するための取り組みまで行われるようになっています。というのも、新竹県は客家語の世界への普及を強化するため、県による初の試みとして「海外客家語教育推進計画」を実施する方針を発表しています。
初回は、オーストラリアのクイーンズランド州で1996年に設立し、以降台湾客家文化の普及に尽力してきた「オーストラリアクイーンズランド客家会(Hakka Association of Queensland Australia)」と連携し、クイーンズランド州の南東部に位置するオーストラリア第三の都市、ブリスベンの台湾センターで授業を開設します。少人数制で海外の児童を対象にし、基礎会話や客家文化の紹介など体系的なカリキュラムを提供、実践的な言語能力の向上を図るほか、客家の歌や文化体験なども取り入れ、客家語の習得とともに文化理解とアイデンティティの深化を目指すとしています。期間は約2~3か月を予定しています。
今後は実施成果を踏まえ、段階的な拡大も検討する方針だということです。
新竹県は、この取り組みが海外の客家団体のニーズに応えるとともに、新竹県の客家語政策が「基盤づくり」から「国際展開」へと進む重要な節目になると説明しています。