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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」)-2026-08-23-シラヤ族が17番目の「台湾原住民族」に認定――台湾が歩む『歴史的正義』への道

PD 西拉雅族民族核定暨正名宣告典禮(1) 「西拉雅族民族核定暨正名宣告典禮」30日在行政院 大禮堂舉行,現場進行祈福儀式為活動揭開序幕。 中央社記者謝佳璋攝 115年7月30日
PD 西拉雅族民族核定暨正名宣告典禮(1) 「西拉雅族民族核定暨正名宣告典禮」30日在行政院 大禮堂舉行,現場進行祈福儀式為活動揭開序幕。 中央社記者謝佳璋攝 115年7月30日

<オープニング:「平埔族」のシラヤ族が台湾17番目の「原住民族」に認定>

  • 8月1日は台湾の「原住民族の日」だった。今年はこの日に合わせて、歴史的ニュースが発表された。台湾南西部を中心に暮らしてきた「平埔族」と呼ばれる平地「原住民族」の一つ「シラヤ族(西拉雅族)」が、台湾の政府から正式に17番目の「原住民族」として認定された。これは台湾の歴史やアイデンティティーを考える上でも、大きな節目となる出来事である。

  • これまで台湾で政府に認定されていた「原住民族」は、アミ族やタイヤル族、パイワン族など主に山地に暮らしてきた16民族だった(当初は9族のみ認定)。一方、漢民族の入植が早く進んだ西部平原では、多くの「原住民族」が長い年月の中で土地や言語、文化を失い、「平埔族(平地の原住民族)」として一括りに扱われ、公的な「原住民族」として認められてこなかった。

  • しかし近年、シラヤ族をルーツに持つ人々が、自らの文化や祭祀、言語の継承に取り組み、民族としてのアイデンティティーを回復する活動を続けてきた。そして2022年には、「司法院憲法法廷(憲法裁判所)」が「平埔族を原住民族の制度から排除している現状は憲法の保障する平等原則に反する」と判断。その後、法整備が進められ、今年7月30日に行政院がシラヤ族を正式承認し、8月1日の「原住民族の日」に、頼清徳総統もこの決定を歓迎し、「歴史的正義と多元的文化を実現する重要な一歩」であると表明するに至った。

  • シラヤ族は台湾南部、現在の台南市を中心に暮らしてきた民族で、17世紀にオランダ人が台湾へ進出した際の記録にも数多く登場する。日本統治時代には民族調査の対象にもなったが、戦後は長く公的な「原住民族」として認められなかった。このため今回の認定は、30年以上にわたる運動が実を結んだ悲願の達成ということになる。

  • さらに今回の認定はゴールではない。新たなスタートである。今後はシラヤ族の人たちは正式な身分登録を行い、教育や文化振興などの制度整備も順次進められていく予定。また、カハブ族(南投)やパゼッヘ族(台中)、タオカス族(台中北部、苗栗、新竹、桃園)など、他の「平埔族」の認定に向けた動きも始まっている。

  • 台湾社会が多様なルーツを尊重し、歴史を見つめ直す流れの中で、このニュースは今後も大きな意味を持ち続けることになるだろう。本日はシラヤ族の「原住民族」認定を起点に、「台湾原住民族」の苦難の歴史と現在の政府との和解に向けたこれまでの動きを振り返る回としたい。

<第1セクション:10年前の蔡英文総統の「台湾原住民族」への謝罪>

  • 今からちょうど10年前、2016年8月1日の「台湾原住民族の日」。この日にも台湾では歴史に残る出来事があった。就任からわずか2か月余りの蔡英文総統が、総統府で「原住民族」の代表を迎え、政府を代表して正式に謝罪したのである。これは台湾史上で初めて、国家元首が「原住民族」に対して公の場で謝罪した瞬間だった。蔡総統は冒頭で、次のように語っている。

  • 「政府を代表して、すべての『原住民族』の皆さんに、最も深いお詫びを申し上げます。過去400年にわたり、皆さんが受けてきた苦しみと不公平な扱いについて、政府を代表して謝罪します。」

  • では、この「400年にわたる苦しみ」とは何を指しているのか。蔡総統はまず、台湾には漢民族が渡来する以前から「原住民族」が暮らし、独自の言語、文化、生活圏を築いていたことを強調した。

  • しかし、その後の歴史の中で、オランダ統治、鄭成功政権、清朝、日本統治時代、そして戦後の中華民国政府と、台湾を支配したあらゆる政権が、程度の差こそあれ、武力や土地収奪、同化政策などによって「原住民族」の権利を侵害してきたと指摘している。つまり謝罪する側は現政権のみならず、「台湾を統治してきた歴代の政府」をも意識したものだったのである。

  • さらに蔡総統は、一つ一つ具体的な問題を挙げながら謝罪した。第一は、政権側が「原住民族」の土地を奪ってきたことである。伝統的な生活領域を取り上げ、彼らの土地だったのにもかかわらず、少数派へと彼らを追いやってしまった。

  • 第二は、自治権を奪ってきたことである。本来、部族ごとの伝統的な秩序や慣習があったにもかかわらず、近代国家の形成の中でそれらは否定され、集団としての権利も十分に認められてこなかった。

  • 第三は、言語や文化への抑圧である。日本統治時代には皇民化政策、戦後は国語政策のもとで華語の強要、「原住民族」の言語使用が制限され、多くの言語、とりわけ「平埔族」の言語はほぼ消滅してしまった。政府は文化の保存に十分な責任を果たしてこなかったとして、これについても謝罪している。

  • また、離島の蘭嶼(ランユィ)に住むタオ族(ヤミ族)に対しては、無断で核廃棄物貯蔵施設を設置した問題についても、「政府は島の人々に大きな負担を強いてきた」として謝罪した。さらに、今回17番目の原住民族として認定されたシラヤ族を含む「平埔族」についても、「外来政権が代わるたびに民族としてのアイデンティティーが侵食されてきた」と述べて謝罪した。

  • そして、この演説で最も印象的なのは、「謝罪は終わりではなく、和解の始まりである」という考え方だった。蔡総統はタイヤル族の言葉を紹介し、「真実」を意味する「Balay」と、「和解」を意味する「Sbalay」は深く結び付いていると説明する。

  • 「真実に誠実に向き合ってこそ、本当の和解が生まれる。」この言葉とともに、「今日の謝罪だけで400年の苦しみが消えるとは思っていません。しかし、この謝罪が政府と原住民族との和解への第一歩になることを願っています」と結んだ。

  • この演説を受けて、総統府には「原住民族歴史正義・移行期正義委員会」が設置され、土地や歴史、言語、文化の回復に向けた取り組みが始まった。そして10年後の今年8月1日、その流れの延長線上で、シラヤ族が正式に17番目の「原住民族」として認定されたのは感慨深い。今回の認定は、10年前に蒔かれた「歴史的正義」と「和解」の種が、一つの形となって実を結んだ出来事と言えるだろう。

  • 蔡英文元総統のこの演説の日本語訳は、台湾在住の作家・栖来ひかりさんがご自身のFacebookで紹介されている。ご関心のある方は、下記のリンクをご参照いただきたい。栖来ひかりさんFacebook「蔡英文総統演説日本語訳」:https://www.facebook.com/share/p/1DRLcUVS5T/

  • それではここで、一曲お聴きいただこう。「台湾原住民族」台東県金峰郷のパイワン族出身の阿爆(Abao)さんの歌で『Thank You』。ゴスペルを彷彿させるこの曲は、2020年にシングル曲として「金曲奨」年間ベストシングル曲賞を受賞するとともに、この曲が収められたアルバム『kinakaian 母親的舌頭』も同賞の原住民語ベストアルバム賞と年間ベストアルバム賞をダブル受賞している。

<第2セクション:「台湾原住民族」が歩んできたこの400年の道>

  • では、ここで改めて、「台湾原住民族」が歩んできた400年の歴史を振り返ってみたい。台湾には、漢民族が本格的に渡ってくる以前から、オーストロネシア語族に属する多様な「原住民族」が暮らしていた。現在政府が認定している17民族だけでも、それぞれ異なる言語や文化、社会制度を持ち、台湾各地で独自の生活を営んでいた。

  • しかし17世紀に入り、オランダやスペインが台湾へ進出すると状況は大きく変わる。さらに台南一帯を支配した鄭成功政権、続く清朝による統治の時代になると、中国大陸の福建や広東地方から大量の漢民族が移住し、開墾が進められていく。その結果、多くの「原住民族」は生活の基盤である土地を失い、山地へ移り住むことを余儀なくされたり、漢民族社会へ同化していったりした。特に西部平原に暮らしていた「平埔族」は、漢民族との通婚や文化的同化が急速に進み、自らの民族名や言語を公に名乗ることも難しくなっていった。

  • また、1895年から始まる日本統治時代になると、近代国家としての行政制度が整備される一方、山地の「原住民族」に対しては武力による制圧も行われた。1910年から1914年にかけての「五年理蕃計画」、そして1930年の「霧社事件」は、その象徴とも言える出来事だった。事件後は武装抵抗を抑える政策が一層強化され、1937年以降の皇民化運動では、日本語教育の徹底と日本名への改名、神社参拝などを通じて、日本人として生きることが彼らにも求められた。

  • 太平洋戦争末期には、「高砂義勇隊」として厳しい戦地に送られた「原住民族」出身者も一定数いた。日本統治時代は、学校教育や医療の普及など「原住民族」居住地域に近代化をもたらした側面もあったが、伝統的な文化や言語が失われてしまったこともまた否定できない歴史の一面であった。

  • 戦後は中華民国政府による統治が始まった。しかし「原住民族」を取り巻く環境が大きく改善されたわけではなかった。戒厳令時代には「国語運動」が進められ、学校では新たな「国語」となった標準華語以外を話すことが禁じられたため、多くの子どもたちは自分たちの民族語を話す機会を失った。また戸籍上では「山地同胞」「平地同胞」などと呼ばれていた。

  • 転機が訪れたのは1980年代後半、李登輝総統が登場し、台湾の民主化が始まってからのことだ。「原住民族」の若者や知識人たちは、「私たちは『山地同胞』ではない。台湾にもともと住んでいた民族だ」と訴え、「正名運動」を展開した。「山地同胞」という呼び方をやめ、「原住民族」という名称を求める運動である。

  • その結果、1994年に憲法の修正条文で「原住民」という名称が採用され、1997年には現在の「原住民族」へと改められました。さらに民族ごとの認定も進み、かつて一括りにされていた人々が、それぞれ本来の民族名を名乗ることができるようになっていった。

  • この「正名運動」は、単に呼び名を変える運動ではなかった。本来の民族名を取り戻し、自分たちの言語を復興し、祭りや伝統文化を次世代へ受け継ぎ、失われた歴史を回復していく運動でもあった。近年では、戸籍上の民族登録を本来の民族名へ変更する人や、民族語による名前を正式に名乗る人も着実に増えている。各地で母語教育や伝統文化の復興も進み、若い世代が自らのルーツに誇りを持とうという動きも広がっている。

  • そして2026年8月1日、シラヤ族が17番目の原住民族として正式に認定された。400年にわたり失われかけていた名前と歴史を取り戻そうとする人々の努力が、「平埔族」と呼ばれる平地の「原住民族」にも、ようやく国家によって認められたことを意味している。蔡英文総統が10年前に語った「歴史的正義」と「和解」は、こうした長い歩みの先に少しずつ形となって表れ始めているのである。

  • ではここで、もう1曲お聴きいただこう。台東県東河郷都蘭村の「台湾原住民族」アミ族出身のシンガーソングライター舒米恩(Suming)さんの歌で、「不要放棄 Aka pisawad」。この楽曲は台湾映画『太陽的孩子(太陽の子)』の主題歌で、2015年の第52回「金馬奨」最優秀オリジナル映画主題歌賞、翌年第27回「金曲奨」年間ベストシングル曲賞を受賞している。

<第3セクション:そして、シラヤ族復興までの歩みーー結びに変えて>

  • 今回、17番目の原住民族として認定されたシラヤ族も、その復権までには長い道のりがあった。シラヤ族は現在の台南市を中心に暮らしてきた平地の「原住民族」である。しかし17世紀以降、漢民族との接触や通婚、開墾の進展によって急速に同化が進み、多くの人々が自らをシラヤ族と名乗ることさえ難しくなっていた。そのため長い間、「すでに消滅した民族」と見なされることもあった。

  • それでも人々は、祖先から受け継いだ祭祀や信仰、「シラヤ夜祭」などの伝統文化を絶やすことなく守り続けてきた。そして1980年代以降は、文化復興や言語研究、民族認定を求める運動が本格化。「私たちは今もここに生きる民族だ」という思いを胸に、30年以上にわたって認定を訴え続けてきたのである。

  • そして今年8月1日、その願いはついに実を結んだ。認定決定を受け、シラヤ族の関係者からは、長年にわたる運動がようやく報われたことへの安堵と喜び、そして「これからは文化や言語を次の世代へ受け継いでいくことが本当の課題だ」という声が聞かれた。認定は通過点であり、シラヤの文化を未来へつないでいくための新たな出発点だという思いが、地元の人々の共通認識のように見える。

  • 400年という長い歴史を経て、自らの名前を取り戻したシラヤ族。その歩みは、台湾という社会が、多様な歴史や文化を尊重し、過去と向き合いながら未来を築こうとしている姿勢を象徴している。そして、この一歩はシラヤ族だけでなく、現在も認定を目指して活動を続けているほかの「平埔族」の皆さんにとっても、大きな希望となったことだろう。

  • 最後にシラヤ族の伝統音楽を演奏する西拉雅Onini竹音樂團の『咱著歡喜唱歌(我らは歌うのが好き)』をお聴きいただきながら、本日はお別れしたい。

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