私は今月初め、台湾北部・台北市中山区に位置し、台湾の優れた劇団による中華圏の伝統的な舞台劇を見られる「台北戲棚(タイペイ・アイ)」を訪れ、「台湾オペラ」を鑑賞してきました。そこで得た台湾オペラに関する知識と上演された演目について今回紹介していきます。鑑賞後、二人の役者さんにインタビューすることができたので、そちらも後ほどご紹介します。
皆さんがよく聞く古典的な「オペラ」は多くの歴史あるオペラハウスがヨーロッパにあることから、「オペラ=ヨーロッパの文化」というイメージがあるかと思います。
一方で中国語で「歌仔戲」と呼ばれる「台湾オペラ」は、実は台湾発祥で、台湾で成立した唯一の演劇です。その歴史は意外と浅く、100年余り前に台湾北東部・宜蘭県で誕生したと言われています。当初は民謡が好きな農民が集まり、男女の愛情に関する昔ながらの台湾民謡を歌っていたものが、徐々に簡単な芝居が盛り込まれるように。1920年代には演劇を一つの商業とする時代の流れに乗り、当時台湾で流行していた他の伝統劇の表現方法とプログラムを多く取り入れ劇場型公演へと進化。衣装や舞台メイクを取り入れ、今に残る台湾オペラの形へ。時代の移り変わりの中で劇場のみならずラジオや映画、テレビといったメディアを通じて発展し、瞬く間に台湾の大衆から最も支持される流行劇の一つとなりました。まさに時代性を兼ね備えた伝統芸能と言えます。
台湾オペラの内容は庶民生活のあらゆる側面を表現しており、セリフと歌詞は、400年前に中国から台湾にもたらされた中国の方言の一つ「閩南語」を使っています。閩南語は今の台湾で話されている台湾語の基盤となった言葉で台湾語とほぼ同じため、台湾の人々にとっては親しみやすく感じます。また台湾の多くの地域で使われている俗語(つまり砕けた表現)も取り入れ台湾文化の特色を色濃く反映しています。
そんな台湾オペラを間近で見ることができる「タイペイ・アイ」では、上演時に台湾華語のほか、英語、日本語、韓国語の四カ国後の字幕も舞台横のスクリーンに映るため、外国人にとっては馴染みのない閩南語が理解できなくても心配ありません。また、スタッフも各言語に精通しており安心です。毎週水曜、金曜、土曜日に台湾オペラや他の中華圏の伝統劇、例えば「中国版歌舞伎」とも言われる「京劇」や台湾の伝統的な人形劇「布袋戯(ポテヒ)」、それに原住民族の舞台などを交代で上演しています。近くには台北メトロの駅が歩いて5分ほどのところにあり、観光客にとってもアクセスしやすいため、大変おすすめのスポットです。
そこで今回私が見た台湾オペラは、題名『魚美人』。大体1時間ほどの上演時間に色とりどりの衣装とメイクを施した総勢30人ほどの役者たちが、舞台袖で生演奏している効果音と共に演じていました。
その物語をネタバレなしで簡単にご紹介しますと、人魚がある日、人間のある男性に恋心を抱きます。そこで人間の女性の姿に化け、偶然を装い男性と出会うことに成功。二人は運命的に惹かれ合い、永遠の愛を誓い合います。しかし、その後多くの困難が巻き起こり、互いに激しく衝突してしまいます。人魚と人間、その恋の行方は?そして、人魚はその真の姿を人間に明かすことはあるのか?こういったストーリーとなっています。
日本語の字幕は閩南語を元にしているので、多くの部分で馴染みのない日本語の言い回しが書かれ、意味が分かりづらい所もありますが、事前にストーリの概要が書かれた日本語の紙が配られるので、それを見てから鑑賞すれば、大体の話の流れは分かるようになっています。
もしストーリーがわからなくても、道具を使ったり数人による同時バク転といったパフォーマンスが繰り広げられ、生演奏の効果音の迫力も相まり、とても満足度が高かったです。その上、始まる前には台湾オペラにまつわる様々な展示や体験、例えば、役者がメイクする姿を間近で見られたり、役者と写真を撮れるコーナーが。また、自分の顔に実際にメイクを施してもらえたり、衣装を着用できる体験会まで。本番で演奏していた演奏家たちによる伝統楽器を使った音楽の演奏もあり、鑑賞前からすでに本場の文化に触れられます。
では最後に、2人への役者のインタビューをお届けします。
まず一人目は今回「孫悟空」役を演じた21歳の役者さんです。挨拶部分をお聞きください。
(インタビュー音声)
この方は、台北市にある、台湾の伝統文化の人材育成を専門とし12年間の一貫教育を行う高等教育機関「国立台湾戯曲専科学校」にて演劇を学んだそう。
そのきっかけは、学校側が学生を募集している時にたまたま見かけた先輩たちのバク転などのアクロバットに惹かれ、「自分も学んでみたいと思った。入学してから学校で学んだ舞台化粧も今では45分ほどで完成させられるようになった」と語っていました。今回演じた「孫悟空」役は体を動かすことが好きな自分にとって一番お気に入りの役で、18歳から演じ現在で3年目だと教えてくれました。
二人目は、この劇の主役である人魚役を務めた女性役者さんのインタビューです。同じく挨拶部分をお聞きください。
(インタビュー音声)
小学五年生から一人目と同じ学校に通い始め、中学生の時から台湾オペラを学び始めたという彼女は、台湾オペラがよく披露される、道教の宗教施設・廟のすぐ近くで育ち、小さい頃から台湾オペラを見て育ったそう。台湾発祥の台湾オペラは時代と共に進化し続けているが、自分も伝統的な部分と新たな部分、その両方を取り入れた劇をこれからも続けていきたいと語ってくれました。
ちなみに、人魚役もアクロバットな動きが多く、その練習は学校にて一か月ほどで習得したそう。短い期間の中でも毎回の練習時間を大切に、そして相手との呼吸を合わせチームワークを大切にして練習をこなしたことで、今の自分になったと教えてくれ、華やかに見える姿の裏の苦労も知ることができました。
ということで、本場で台湾オペラをはじめとした伝統舞台芸術を見てみたい方は、皆さんもぜひ一度、タイペイ・アイなどの劇場に足を運んでみてくださいね。