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馬場克樹の「とっても台湾」(爸爸桑的「非常台灣」)-2025-09-14-「滷肉飯」「魯肉飯」「肉燥飯」に関する雑学

この1年に食した台北・新北市各店の滷肉飯/魯肉飯
この1年に食した台北・新北市各店の滷肉飯/魯肉飯

<第1セクション:「滷肉飯」?それとも「魯肉飯」?その起源と表記の混同>

  • 先月のことであるが、「滷肉飯」(ルーロー飯、「魯肉飯」の表記も)を話題にした、ブラックコメディーのショートムービーの撮影に参加した。私も何だかんだ言って週に一度は口にしている「滷肉飯/魯肉飯(lóo-bah-pn̄g)」。本日は台湾人のソウルフードの一つとされ、店や家庭ごとに様々なレシピが存在する「滷肉飯/魯肉飯」にスポットを当て、その起源やレシピなども含めて、私なりの雑学をまとめてみたい。

  • 台湾の「滷肉飯/魯肉飯」は、清代中期以降に台湾人の多くの人のルーツである福建の泉州から渡ってきた移民がもたらした、閩南地方の料理だとされる。閩南語で「滷」とは「さんずい」に「鹵(しお)」と書き、もともと「水と塩で煮る」という意味から、醤油や香辛料で豚肉などを煮込む料理法を表すようになった。ただ、当時の台湾は肉は大変貴重だったため、豚皮や脂身の多い部位を細かく刻んで煮て、煮汁ごとご飯にかけるスタイルが庶民に受けたとされる。また、日本統治時代に台湾の「在来米」に代わり、日本から導入されたジャポニカ米の「蓬莱米」が普及。粘りのある白米が「滷肉」の煮汁と合わさったことで、「滷肉飯/魯肉飯」が更に広く深く浸透したとも言われている。

  • 先ほど述べたように、「醤油や香辛料でじっくり煮込む」という「滷」(「さんずい」に「鹵(しお)」)の字を当てた「滷肉飯」が本来は正式な漢字表記であるのだが、同音の「魯」(「魚」の下に「日」)の字を当てた「魯肉飯」の表記が巷で慣用的に使われ、それが広く普及してしまった。2011年に、当時の台北市長だった郝龍斌さんが「米其林(ミシュラン)ガイドが『魯肉飯=山東から来たもの』と誤認した」として、「滷」の字を正しく使うよう呼びかけたこともあった。このことは「滷肉飯の正名運動」とも呼ばれる。しかしながら、台湾の全国にチェーン展開をしている「鬍鬚張(Formosa Chang)」を筆頭に、「魯肉飯」として多くの店はブランドを確立させてしまっているため、今となってはなかなか「滷肉飯」への表記変更は難しいようだ。私としては「滷肉飯」でも「魯肉飯」でも美味しければそれでいい。

  • もう一つこの料理の呼称についての混同がある。北部で「滷肉飯/魯肉飯」と呼ばれるこの料理は、中南部、特に台南では「肉燥飯(bah-sò-pn̄g)」という名称が広く使われる。こちらは豚のひき肉(肉燥)を主体にし、香味油や醤油で煮込んだ比較的さらりとした「滷汁(煮汁)」をご飯にかける。北部の「滷肉飯/魯肉飯」より軽やかで油分が少なく、日常食として家庭や市場で頻繁に食されてきた。台南を含む南部では、「魯肉飯」と「肉燥飯」という言葉がしばしば混用され、観光客に混乱を与えることも少なくない。

  • さらに南部には「焢肉飯(khòng-bah-pn̄g、炕肉飯の表記も)」という独自の存在がある。これは皮付きの豚バラや三枚肉を大きな塊のまま醤油や香辛料でじっくり煮込み、白飯に添える料理、つまりは台湾風の豚の角煮飯である。台南や高雄などでは、これを「魯肉飯」と呼ぶことがあり、北部の細切れ肉の「滷肉飯/魯肉飯」とは全く異なる姿を見せる。このため、台湾を旅する人が「魯肉飯を頼んだのに角煮が出てきた」と驚くことも珍しくない。

  • つまり「滷肉飯/魯肉飯」という呼称は、台湾全域で共有されつつも、地域によって指す料理が異なる多義的な言葉なのである。北部の「滷肉飯/魯肉飯=細かめに刻んだ豚肉の丼飯」、南部の「肉燥飯=挽肉のそぼろ丼飯」、さらに「焢肉飯=大きな角煮飯」をもこの範疇に含みうる。この多様性こそが台湾食文化の奥深さを示しており、同じ言葉が異なる料理を指す背景には、地域的な嗜好や食材利用の歴史、さらには食文化をめぐる言語習慣の違いが映し出されているといえる。

  • さてここで、WaverLAB(搖擺實驗室)の『魯肉飯』をお聴きいただきたい。WaverLAB(搖擺實驗室)は、LIU KOIさん、HighBoyさん、CuzyBoiiさんからなるユニットで、マキシシングル『在地(ローカル)』に収められているこのヒップホップの楽曲『魯肉飯』は、FatFlowBoyさんもフィーチャーしている。台湾の代表的ソウルフード「魯肉飯」をモチーフに、ローカルな土地に根差した文化的センスとユーモラスな歌詞が上手く融合した1曲。

<第2セクション:台北の屋台文化としての「滷肉飯/魯肉飯」>

  • 次に台北の戦後の屋台文化の文脈で、「滷肉飯/魯肉飯」がどのように発展していったかを概観してみたい。第二次世界大戦後、台湾は日本統治から中華民国の統治下へ移行し、急激な社会変動と人口増加を経験した。特に台北には外省人や地方からの移住者が集中し、限られた都市インフラの中で安価で迅速に食事を提供する屋台文化が急速に発達した。この時期に庶民の胃袋を支えた代表的な料理のひとつが「滷肉飯/魯肉飯」だった。

  • 台北の屋台文化を象徴する空間の一つが「建成圓環」である。日本統治時代から市場や夜間営業の露店が集まっていたが、戦後になると市政府の管理下で夜市的空間として整備され、多くの「滷肉飯/魯肉飯」店が軒を連ねた。「三元號魯肉飯」などの老舗はその代表例であり、戦後復興期の労働者や庶民にとって、手頃な価格で腹を満たせる屋台飯として定着した。圓環はしばしば「台北人的共同記憶」と形容され、「滷肉飯/魯肉飯」はその中心的存在であった。

  • 屋台で提供される「滷肉飯/魯肉飯」は、豚皮や脂身を刻み、醤油・砂糖・五香粉などで煮込んだ「滷汁」を飯にかける簡素な一椀である。材料は肉屋で余った切れ端で済むため安価に提供でき、また「滷汁」は継ぎ足しながら煮込み続けることで独自の深い味わいが生まれた。戦後の物資不足の中で、屋台経営者にとっても効率的であり、庶民にとっても日常的に親しめる料理となった。北部では細切りや皮付きの肉を用いる「滷肉飯/魯肉飯」と呼ばれる一方、南部では挽肉を煮込んだ「肉燥飯」と称されることが多いことは先ほど述べたとおりだが、台北では前者が主流として普及した。

  • 1950〜70年代にかけて、圓環や雙連街、南門市場周辺は「滷肉飯/魯肉飯」の名店が集積する場所として知られるようになり、外食産業の萌芽を支えた。私のイチオシの「香滿園」は雙連に、人気店の「金峰魯肉飯」は南門市場に今でも陣取っている。やがて1970年代以降、台北市の都市再開発や衛生管理の強化により屋台の取り締まりが進むと、屋台から店舗化する動きが加速する。後にチェーン展開した「鬍鬚張(Formosa Chang)」も、1960年代に屋台から出発し、戦後の屋台文化を母体として成長した代表例である。

  • ここで、その「鬍鬚張」の足跡を駆け足で辿ってみたい。1960年に創業者・張炎泉さん(雲林県出身)が台北・民生西路に「雙連魯肉飯」という屋台を開業。始めは名称もなく、単なる路上の「小吃屋台」だった。1971年に現在の寧夏夜市付近に店舗を移転し、親しみやすい「鬍鬚張」という愛称が定着。1979年には初の分店を開業し、次第にチェーン展開へと向かう。

  • 1980年代後期~1990年代にかけて、マクドナルドが台湾に進出した影響を受け、家族経営ながら企業経営の基盤を整備。1988年に「鬍鬚張速食有限公司」、1993年に「股份有限公司(株式会社)」として法人化。その後、セントラルキッチンの設置やISO・HACCPなどの衛生・品質認証の取得を進め、本格的なブランド化・企業化に成功、現在は日本の石川県金沢市にも2店舗を展開。「鼎泰豐」「春水堂」などと並んで「台湾小吃」の国際展開の象徴的事例となっている。

  • 話を元に戻そう。このように「滷肉飯/魯肉飯」は、戦後台北の屋台文化の中で「安い・早い・うまい」を体現する国民食として確立された。その歴史は単なる食の変遷にとどまらず、都市化・移民社会・衛生政策といった社会の変動を反映するものであり、今日の台湾を代表する「小吃文化」の基盤を築いたといえる。

  • では、昨年スマッシュヒットした、宮崎県出身のシンガーソングライターvenoさんによる日本語楽曲『ミッドナイト魯肉飯』をお聴きいただきたい。この楽曲は、2023年12月リリースのファーストシングルで、「ミッドナイト(深夜)の魯肉飯」というタイトルは、ご本人曰く、学生時代に台湾カフェでのバイトの後「深夜に自分で魯肉飯を作った時、ふと(これって) 『ミッドナイト魯肉飯じゃん』 と口にした」ことがきっかけ。語呂が良かったので自然と楽曲へつながったとも語っている。ディスコポップやシティポップを彷彿させる軽快なサウンドとともに、「魯肉飯」という異文化的ワードが、ご当地の台湾の聴き手にも強く響き、YouTubeでは「魯肉飯のキーワードアルゴリズムに誘われて聴いたのだが、この曲に衝撃を受けてvenoさんのファンになった」という台湾人コメントも見られるなど、ネット上でもその中毒性が話題となった1曲。

<第3セクション:我が家の「滷肉飯/魯肉飯」のレシピを公開>

  • ここで「滷肉飯/魯肉飯」(台北式)の我が家のレシピをご紹介しよう。材料は4〜6人分。(1)豚バラ肉(ゼラチン質たっぷりの皮付き推奨):400g→ 粗めに包丁で刻む(ミンチではなく、ブロック肉を包丁でやや厚めの1cm角くらいに切ることにより風味と食感が増す)、(2)干ししいたけ:3〜4枚(水で戻してみじん切り、戻し汁は調味料として使う)、(3)エシャロットか玉ねぎ:100g(みじん切り。玉ねぎだとMサイズ半個分。市販の乾燥した「油葱酥」を代用しても良いが、その場合は水分量を考慮して30g程度)、(4)ニンニク:2片(みじん切り)、(5)生姜:みじん切り2枚。

  • 調味料は次のとおり。(1)醤油:大さじ4、(2)老抽(濃口醤油/なければ日本のたまり醤油):大さじ1(色づけ用)、(3)砂糖(台湾では氷砂糖を使うことが多い):大さじ1.5、(4)米酒(または紹興酒):50ml、(5)干し椎茸の戻し汁+水:300ml、(6)五香粉(または八角1個+シナモン少々):少々、(7)カレー粉:少々(隠し味、入れなくても可)、(8)黒胡椒:少々。これとは別に、ゆで卵:人数分(お好みで「滷蛋(煮卵)」に)と白ご飯:人数分。たくあんが2切れあれば、完璧。

  • 作り方は次のとおり。(1)豚肉の下ごしらえ:豚バラを下茹でして余分な脂を落とし、皮ごと1cm角に刻む。刻むことで脂と皮のゼラチン質が煮込むうちに溶け出し、とろみのある「滷肉」になる。(2)香味野菜の炒め:鍋に油を熱し、エシャロット(または玉ねぎ、「油葱酥」の場合は煮込みの段階で入れる)、ニンニク、生姜を炒める。香りが出たら豚肉を加え、脂が透き通るまでしっかり炒める。(3)砂糖で色とコク出し:砂糖を加え、軽くカラメル状になるまで炒め、肉に絡める。(4)調味・煮込み:醤油・老抽(たまり醤油)・米酒(紹興酒)を加えてざっと炒めた後、干し椎茸・戻し汁・水を加える。五香粉や八角、隠し味のカレー粉を投入し、弱火で蓋をして40〜60分煮込む。もし煮詰まるようなら火をさらに弱め水を少し足す。煮込み中にゆで卵を加えると「滷蛋」になり、定番の副菜に。(5)仕上げ:煮汁がとろっとしてきたら黒胡椒で味を引き締める。熱々の白ご飯にかけ、好みでたくあん(高菜などでも可)を添える。ぜひお試しあれ。

  • 最後に台湾のシンガーソングライター・陳雷(チェン・レイ)さんの歌で「台灣魯肉飯」(2021年リリース)をOA。これも台湾のソウルフード「魯肉飯」を歌詞の主題に据えた温もりある曲。親しみやすい台湾語で「台灣的魯肉飯 甲台灣人有情份(台湾の魯肉飯は、台湾人にとっての心の味だ)」と情緒豊かに歌いながら、故郷への郷愁を誘う。陳雷さんご自身の人情味あふれるお人柄とともに、台湾文化への愛着が感じられる1曲

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