<オープニング>
台湾のエミー賞とも呼ばれる「金鐘奨(ゴールデン・ベル・アワード)」が、今年で60周年を迎えた。中華圏で最も権威あるテレビ賞のひとつであり、台湾のテレビ・ラジオ業界における最高栄誉の賞とされている。
今年のドラマ部門では、『聽海湧(邦題:海の音色)』が「迷你劇集(短編連続ドラマ)」のジャンルで作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、助演男優賞の主要5冠を達成した。私はこの作品に日本側弁護士団団長・高橋庄治郎役で出演し、脚本の日本語訳も担当している。
10月18日に台北流行音樂中心で行われた授賞式では、監督やスタッフ、共演者とともに受賞の喜びを分かち合うことができた。自分の関わった作品が台湾の放送界最高の舞台で高く評価されたことを、誇りに思う。
<第1セクション:「金鐘奨」の歴史的変遷>
「金鐘奨」は1965年、当時の行政院新聞局によって創設された。当初はラジオ放送の振興を目的とし、優れた番組や制作者を表彰するものであった。台湾でテレビ放送が本格的に普及し始めた1969年には、テレビ部門も新設され、ラジオとテレビを統合しての表彰が行われるようになる。
この時期の台湾は、放送技術がまだ発展途上で、限られた局数の中で番組制作が試行錯誤を重ねていた。しかし「金鐘奨」の存在が、業界全体の品質向上と創意工夫の原動力となり、台湾テレビ文化の基礎を築いた。
1980年代後半から90年代にかけて、戒厳令解除(1987年)を契機にメディア環境は激変する。言論の自由が拡大し、ケーブルテレビや衛星放送が登場、多様な番組が次々と生まれた。この流れに合わせ、「金鐘奨」も部門を細分化し、ドラマ、バラエティ、ニュース、ドキュメンタリーなど、専門的な評価基準を設けていく。
この時期、「金鐘奨」は業界の成熟を象徴する存在となり、受賞は実力と人気の証と見なされた。特にドラマ部門では社会派テーマや緻密な脚本が評価され、台湾ドラマの黄金期を牽引する役割を果たした。
2012年、行政院新聞局の廃止に伴い、主催は文化部(文化省)傘下の影視及流行音樂產業局へ移管された。これにより「金鐘奨」は政治的な宣伝から離れ、文化とエンターテインメントの振興を目的とする独立した祭典へと生まれ変わった。評価基準の透明性・専門性も高まり、名実ともに公正で権威ある賞となった。
ここで島嶼都市浪漫譚さんの歌で『朝暮』をOA。この曲は『愛作歹』のエンディング・テーマソングで今年の「金鐘奨」ドラマ部門最優秀オリジナル楽曲賞ノミネート曲。
<第2セクション:「金鐘奨」の現在の姿>
現在の「金鐘奨」は、台湾エンターテイメント界全体を祝う一大イベントとなっている。まず、テレビとラジオの授賞式は分離開催され、それぞれの専門性を重視する形式に改められた。テレビ部門は「節目類(番組)」と「戲劇類(ドラマ)」に分かれ、数日にわたり大規模に行われている。
ドラマ部門では「連續劇(長編連続ドラマ)」「迷你劇集(短編連続ドラマ)」「電視電影(テレビ映画=1話完結)」の3ジャンルが設けられ、演技・演出・脚本・技術のあらゆる面で優れた人材が表彰される。こうした細分化によって、多様な才能が正当に評価される土壌が育まれた。
受賞作品も年々多様化している。社会問題やLGBTQ+、歴史などを扱う作品が高く評価され、『與惡的距離(悪との距離)』(2019年)はその代表例だ。かつてはアイドルドラマ中心だった台湾ドラマが、社会的・国際的テーマを扱う作品群へと進化している。
また、NetflixやHBOといった国際配信プラットフォームの普及により、「金鐘奨」のノミネート作品は世界的にも注目を集めるようになった。台湾ドラマが国境を越えて配信されることで、「金鐘奨」は台湾エンタメの国際的ブランドを支える重要な窓口となっている。
さらに授賞式自体も、レッドカーペットや音楽パフォーマンスなど、エンターテインメント性に満ちた華やかな祭典として定着している。私は今年その場に参加し、台湾のテレビ文化の成熟と新しい世代のエネルギーを肌で感じた。
ここで黃大煒さんの歌で『The Way I Feel』をOA。『化外之醫』のエンディング・テーマソングで今年の「金鐘奨」ドラマ部門最優秀オリジナル楽曲賞ノミネート曲。
<第3セクション:『聽海湧』――歴史を問い直すフィクション>
『聽海湧』は第二次世界大戦中、日本軍に徴用された台湾人捕虜監視員の苦難を描く作品である。放送後、在野の研究者から史実との違いを指摘され、また参考文献からの著作権の侵害あったとして訴訟も起こされたが、そもそも作品は特定の実在した人物をそのままモデルにしたものではなく、歴史を題材とした完全なフィクションである。「公視(公共テレビ)」は台湾の著作権法に基づき反論し、創作の自由を守る姿勢を貫いた。
脚本家の蔡雨氛さんは受賞スピーチでこう語った。 「『聽海湧』の放送後、思いがけない出来事が続きました。心が折れそうな時期もありましたが、支えてくれた仲間に感謝します。台湾が戦争や権威の圧力のもとでアイデンティティを歪めることのない国になりますように。そして世界が平和でありますように。」
孫介珩監督も言う。「80年前、この物語に登場する人々は日本、中国、オーストラリア、そして台湾から同じ戦場へ送られました。彼らは『自分は何者なのか』を問い続けました。今の私たちも同じ問いを抱えています。」
そしてこう結んだ。 「この作品の中に、自分の家族の歴史を見出す人もいれば、異なる記憶に戸惑う人もいるでしょう。受け入れる人もいれば、拒む人もいる。それでも私たちは共に答えを探していくのです。この賞の意味は、その歩みを一歩前へ進めたことにあります。」
その言葉を会場で直接聞いたとき、私は胸の奥が震えるのを感じた。対立をあおるのではなく、多様な立場を認めながら「自分とは何者か」を共に探していこうとする誠実な姿勢に心を打たれた。
『聽海湧』は、台湾という多層的な社会が抱える記憶の痛みを見つめ直し、過去を超えて未来を見据える作品だった。今回の5冠受賞は、その創造性と誠実さが正当に評価された証でもある。
「金鐘奨」は、これからも台湾放送文化の進化を導く羅針盤として、その歴史を新たに刻み続けていくだろう。
本日お別れの曲は、柯智棠さんの歌で『神的回信』をOA。『星空下的黑潮島嶼』のエンディング・テーマソングで今年の「金鐘奨」ドラマ部門最優秀オリジナル楽曲賞受賞曲。