<第1セクション:世界が注目する台湾コーヒーの現在>
台湾みやげといえば台湾茶を思い浮かべる人が多いが、近年人気を高めているのが台湾産コーヒーである。フルーティで華やかな香り、適度な酸味をもつ台湾のコーヒー豆は、地元の愛着を差し引いても十分に高品質だ。
台湾は北緯25度前後の「コーヒーベルト」に位置し、気候的に栽培適地である。19世紀末の清朝期、イギリス人商人がコーヒー苗を持ち込んだという記録があるが、本格的な商業栽培は日本統治期に始まった。
生産量ではブラジルやベトナムに遠く及ばないものの、この20年で約30倍に増加。とりわけ注目されるのは品質の高さで、カッピング審査で国際基準を満たすスペシャルティコーヒーが続出している点である。栽培から焙煎、販売までの一貫管理が進み、台湾コーヒーは「量より質」で存在感を高めている。
一方で、消費文化の面でも2000年代以降のカフェブームが追い風となった。欧米や日本からの影響を受け、お洒落で個性豊かなカフェが乱立する「カフェ戦国時代」が到来。台北だけでなく地方都市でもカフェ巡りが観光の一部となり、コーヒーは台湾の新しい文化アイコンに育ちつつある。
これからOAする 蕭亞軒(Elva)さんの1999年のヒット曲『Cappuccino』が象徴するように、音楽やファッションと結びついた「コーヒー文化の洗練化」もこの時期に始まった。
<第2セクション:日本統治時代が築いた台湾コーヒーの礎>
台湾コーヒーの発展を語るうえで欠かせないのが、日本統治期における北海道帝国大学(現・北海道大学)との関係である。『サライWEB』(2025年10月13日付)の市川美奈子氏によれば、「台湾コーヒーの黎明期を築いたのは日本から渡った研究者たち」であり、彼らの存在が台湾のコーヒー産業の基盤を形づくったという。
1902年、台湾総督府の主導でコーヒーの試験栽培が始まり、北大農学部の卒業生たちが南投県の「北海道帝国大学農学部附属台湾演習林」で研究を重ねた。初代殖産局長の橋口文蔵(元北大学長)は、1895年にメキシコとハワイからコーヒー種子を取り寄せ、埔里に植えた。これが台湾におけるコーヒー栽培の起点とされ、「台湾珈琲の父」と呼ばれている。
その後、二代目殖産局長の新渡戸稲造をはじめ、笹尾修道、林平三、佐々木準長など北大出身の技術者たちが日本市場向けの商業栽培を整備し、台湾コーヒーの礎を築いた。筆者にとっても、母校ゆかりの人々の努力が台湾の地で結実したことは感慨深い。
戦後は日本人技術者の引き揚げとともに一時衰退するが、1999年の台湾中部大地震を契機に再興する。被災地での土壌保全を目的に、政府が檳榔からコーヒーへの転作を奨励したことが転機となり、2000年代以降、阿里山や古坑などで再び栽培が活発化した。さらに、欧米や日本で修業したバリスタや焙煎士が帰国し、品質志向の波が拡大。観光・農業・カフェ文化を結びつけた「台湾型コーヒー産業」が形成されていった。
近年では日本の専門商社や焙煎業者も台湾産豆に注目し、相互交流が進んでいる。日本の味覚に合う台湾コーヒーは、高品質志向の市場で確実に地位を築きつつある。
<第3セクション:個性豊かな「台湾産地ブランド」の形成>
台湾のコーヒー栽培面積は約1,000ヘクタール、年間生産量は約1,000トン前後と小規模だが、その多様な地形と気候が個性的な豆を生み出している。たとえば、嘉義県阿里山はお茶と同じく昼夜の寒暖差が大きく、フローラルで華やかな香りが特徴。雲林県古坑は北回帰線沿いの微気候を生かし、バランスの取れた味わいで知られる。南投県仁愛郷や台東県太麻里、花蓮県瑞穗などでは、標高と日照条件の違いからフルーティな豆が育つ。
また、多くの農家が茶栽培の経験を活かし、乾燥・発酵・選別などに製茶技術を応用して品質を高めている点も特色だ。地域単位でのブランディング化が進み、阿里山や古坑などは観光と結びついた「コーヒーの里」としても知られるようになった。
こうした努力の結晶が国際的評価につながり、2024年には世界的品評会「Cup of Excellence(COE)」が初めて台湾で開催された。先述の市川氏によれば、「COEの開催は台湾が世界水準の品質を備えた証」であり、2020年には雲林県産の豆が「コーヒー品質協会(CQI)」によって89.25点という世界最高得点を獲得する快挙もあったという。
まとめると、台湾コーヒーは「歴史的には日本との深い結びつき」「現在は量より質を重視」という二重の特徴を持つ。国内需要の高まりに対し輸入依存が続く一方、スペシャルティ化と地域ブランド戦略が進展。今後は観光・地域振興と連動し、少量高品質のアグリブランドとしての地位を確立していく可能性が高い。
最後に、香港の張學友さんの歌で『咖啡』を聴きながら、台湾の豊かな「咖啡時光」に思いを馳せたい。
引用記事URL:https://serai.jp/tour/1240295 (『サライ』2025年10月13日、市川美奈子氏「コーヒーが紡ぐ日台の絆。台湾コーヒーの発展に尽力した日本人たち」)