日本統治時代の1908年に設置された、台湾で最も歴史のある博物館で、現在は政府管轄の公立博物館として北部・台北市に位置する「国立台湾博物館」では現在、特別展「台湾有犀(台湾にサイがいた)」が開催されています。台湾で発見された古代のサイの化石を展示し、その発見と研究の歩みを振り返るとともに、同博物館が果たしてきた重要な役割を紹介する内容となっています。
サイといえば、陸に暮らす哺乳類の中でゾウに次ぐ大型の動物動物園に行って簡単に見ることができても、サイは台湾人にとっても「異国性」を帯びた存在。約80万年から40万年前にかけて、野生のサイが台湾の地を歩き、その生息域が北部・中部・南部にまで及んでいたことを想像する人は少ないはず。それらの死骸は数十万年に及ぶ地質作用を経て化石となり、今日では古代台湾の生態環境や自然史を理解するうえで重要な手がかりとなっているのです。
台湾の北部から南部では特に、堆積した岩を主体とする地層で、様々な化石が発見されており、離島・澎湖海域の海底からも、古代のゾウやクジラなど、大型動物の化石が採集されたことがあります。これらの発見は、かつて台湾に非常に豊かで多様な生態環境が存在していたことを示しており、その中には「台湾にサイがいた」特別展の主役である、「早坂(はやさか)サイ」という名前の古代のサイの化石も含まれています。「早坂サイ」の「早坂」は1930年代に台北帝国大学(国立台湾大学の前身)の地質学教授として活躍した日本の古生物学者、早坂一郎(はやさかいちろう)氏の名前に由来します。早坂氏は1971年、南部・台南市左鎮区の渓流付近で牛の世話をしていた地元の子供が偶然見つけた石がサイの化石である可能性を指摘した人物で、のちにこれはサイの歯の化石であることが判明。この発見の噂は瞬く間に広まり、多くの収集家が化石探しに訪れ、新聞で大きく報道されました。早坂サイの歯の化石が見つかった1971年の12月、国立台湾博物館の前身「台湾省立博物館」、台湾大学、地元の収集家がチームを組み、更なる発掘を正式にスタート。発掘活動は1972年に正式に終了。歯のほかにも複数の部位の化石が出土し、保存状態は早坂サイの体全体の約40%に達しました。これは現在においても、台湾で発見された最も完全な古代サイの化石として知られています。
台湾の古生物研究に貢献した早坂一郎教授を記念するため、1984年にこのサイの化石が「早坂サイ」と名づけられました。
「台湾にサイがいた」展ではそんな早坂サイの化石発見の物語と1974年に国立台湾博物館の前身「台湾省立博物館」で開催され当時としては異例の20日足らずで累計約10万人の来場者を記録した早坂サイの化石を展示する特別展の様子を再現。当時展示されていたサイの骨格化石の再現や、写真記録、さらには当時のパンフレットの復刻版が一堂に会しています。
他にも、早坂サイに関する最新の研究成果も紹介。現代の研究によれば、50年前に修復された化石にはいくつかの誤まった認識があったことが判明しているため、今回の展示では、来場者が直感的に修復後の化石の姿を理解できるよう工夫されています。また、恐竜や他の古代哺乳類に関する展示もあります。
「台湾にサイがいた」展、台北市の「国立台湾博物館」で今年5月31日まで開催中で、入場料は大人一人30台湾元(約150円)となっています。毎週火曜日から日曜日には2回にかけて1時間ほどのガイドによる説明も実施。皆さんも機会がありましたらぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?(イベント公式サイト:https://event.culture.tw/mocweb/reg/NTM/Detail.init.ctr?actId=50111&utm_source=moc&utm_medium=index&utm_campaign=50111)


(写真:国立台湾博物館)
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ちなみに、早坂サイの化石がもたらした影響は、特別展の開催に留まりません。先ほど話した1972年の発掘作業およびその後の修復作業は高度で専門的な過程を伴い、外国人研究者の支援を必要とする場面もありました。こうした経験を通じて、当時の台湾省立博物館は、既存の行政予算や組織体制では対応しきれないことを痛感。そのため、発掘作業中から、台湾省立博物館は上級機関に対して継続的に補助金の申請を行っていました。当時の館長は自ら報告書を作成し、「台湾省立博物館は現代の基準に沿って国際的に活動すべきである」と提言。この積極的な働きかけの結果、ついに資金が確保され、化石の修復や特別展の開催が可能となったという経緯があります。このように1971年に偶然発見されたサイの化石は、考古学上重要な発見となっただけでなく台湾省立博物館が自己の立ち位置を見直し、変革を模索する重要な契機となったのです。
と、陸の考古学に関する特別展をご紹介しましたが、次は、「海」の考古学に関する展示をご紹介。
北部・新北市に位置し、台湾初の考古学専門の博物館として知られる「十三行(じゅうさんこう)博物館」では現在、水中考古学に関する常設展「湛藍十三:水下考古永續傳承展(藍の十三:水中考古学の持続的継承展)」が行われています。(イベント公式サイト:https://www.sshm.ntpc.gov.tw/xmdoc/cont?xsmsid=0I100687155454429015&sid=0P331357307377690026)
「海底に保存されたタイムカプセル」とも言える沈没船に積まれていた物などを通じて、歴史的背景や物語をひもとく内容で、1892年に台湾海峡で沈没した英国の船の貴重な積載物が展示され、さらに台湾では非常に珍しく保存状態の良い「古代水牛の頭骨化石」とともに台湾における豊かな水中文化資産の姿を紹介しています。
会場には台湾で唯一の考古学をテーマにしたカフェ「13 CAFÉ」も併設し、店内には十三行博物館が日本や韓国の博物館と姉妹博物館提携を締結した際に贈られた埴輪や土器の複製品も展示されています。こちらの新北市•十三行博物館での取り組みもぜひチェックしてみてくださいね。

(写真:十三行博物館)